この記事にはネタバレを含む(あらすじ以降)
登場人物/キャスト
デモドコス(トラヴィス・スコット)
冒頭と終盤に登場する吟遊詩人。
1番最初に出てくるので、まずはこの人物から。
オデュッセウス(マット・デイモン)
イタケの王。
弓の名手であり、ギリシャ連合軍の頭脳ともいえる策士。
エウリュロコス(ヒメーシュ・パテル)
オデュッセウス一行の副指揮官。
副指揮官ではあるものの、物語の中で登場する回数も多く、かなり重要な人物です。
そして何より、今作では「やらかす男」という印象が強い(笑)。
ある意味、今作のキーマンともいえる人物です。
シノン(エリオット・ペイジ)
木馬が神聖な供え物であるとトロイア人に信じ込ませるため、オデュッセウスによって残された人物。
もともとはトロイア戦争に加わる予定ではなかったものの、アンティノウスとクジを交換することで参戦することになります。
ペネロペ(アン・ハサウェイ)
オデュッセウスの妻であり、イタケの王妃。
一途で力強い性格の女性です。
オデュッセウスの不在が続く王宮で、王位を狙う求婚者たちをうまく受け流しながら耐え続けています。
テレマコス(トム・ホランド)
オデュッセウスの息子。
まだまだ未熟で、王位を引き継ぐには至らず、母ペネロペのもとで暮らしています。
姿を見たことすらない父オデュッセウスの生存を信じ、父の真相を確かめるために動き出します。
アンティノオス(ロバート・パティンソン)
ザ・悪人。
ゼウスの掟を悪用して王宮に居座り、王位とペネロペを狙う求婚者たちの中心人物です。
アテナ(ゼンデイヤ)
作中ではオデュッセウスのそばにいて、彼を見守る知恵と戦争の女神。
ちなみにゼンデイヤはトム・ホランドの妻ですね。
エウマイオス(ジョン・レグイザモ)
オデュッセウスの忠実な家臣であり、盲目の豚飼い。
古き日のオデュッセウスを知っており、オデュッセウスが愛する犬の過去を知る人物でもあります。
ヘレネ/クリュタイムネストラ(ルピタ・ニョンゴ)
双子の王妃。
ルピタ・ニョンゴが1人二役で演じています。
ヘレネはメネラオス王の妻。
原作では、彼女が捕虜にされたことがきっかけとなってトロイア戦争が起こったと言われています。
メネラオス(ジョン・バーンサル)
スパルタの王。
今作では数少ない、トロイア戦争から生還した人物の1人です。
ちなみにジョン・バーンサルは、直近のスパイダーマンでもお馴染み、あのコンビですね。
アガメムノン(ベニー・サフディ)
超かっこいい装備のあの漢!
ミケーネの王であり、トロイア戦争におけるギリシャ軍の総司令官です。
この時点では、ただただかっこいいとだけ言っておきます。
悲しき漢。
前提知識
今作を見るうえで、少しだけ知っておいた方がいいことがあります。
まず、この世界では神や怪物が当たり前のように登場します。
そして、神が身分を隠して旅人や客人として現れることもあります。
そこで重要になってくるのが、作中でも何度も登場する「ゼウスの掟」です。
これは古代ギリシャにおける最高神ゼウスが管轄した、「客人歓待(クセニア)」の宗教的・倫理的な掟。
簡単に言えば、見知らぬ旅人や物乞いであっても、等しく手厚くもてなさなければならないという絶対的なルールです。
客を受け入れる側だけではなく、客側にも当然ルールがあります。
もてなしを悪用して食べ過ぎたり好き勝手したりするのではなく、その恩を覚えておき、外の世界の「物語」や情報を返礼として伝える。
そういったものまで含めて、客人をもてなすことが大切にされていたわけです。
そして、この掟を破れば神罰を受けると信じられていました。
つまり、神を冒涜すれば必ず何らかの報いが下る。
しかもこの世界では神の力は絶対的で、彼らの匙加減ひとつで人の生死すら左右されます。
さらに、作中では「死者を弔うという掟」も出てきます。
どんな状況であっても、死者を弔うことを忘れてはいけない。
ギリシャ神話では、たとえ罪人や敵であったとしても、遺体を放置することは最大の不義とされ、神々の罰の対象になると考えられていました。
死者を弔うことは、いわば「人間が人間であるための境界線」だったとも言えます。
特に今作では、味方の死をどう弔うのかという部分が、物語を通してかなり重要になってきます。
全体的な感想
まず、この映画は映画館で!
できればIMAXで観た方が良い!
吹き替えより字幕のが情報量多くておすすめ!
それだけ映像や音に迫力があります。
予告でも流れていた「ダンダンダン」の音や、弓を放つ音なんかも、映画館の大きなスクリーンと音響で観ると、やっぱり感じ方が違うと思います。
そして、映画を見終わったあと、めちゃくちゃ疲れます(笑)。
3時間の長い映画というのもありますが、とにかくボリュームがすごい。
体感としては、映画10本くらい観たんじゃないか?と思うくらいです。
ただ、それだけ長いのに、映画自体の長さを感じさせない。
特に中盤からは怒涛の展開が続いていくので、気がついたらどんどん物語に引き込まれていきます。
時系列も異なっていたり、オデュッセウスの回想シーンや、息子テレマコスのシーンなどが混ざりながら映画が進んでいくのですが、不思議なことにスッと頭に入っていく。
この辺りは本当に監督あっぱれだと思います。
そして、伏線が程よく張られていて、それがしっかり回収されていくのも気持ちいい。
原作と同じところもあれば、ノーラン監督が現代風に解釈して表現した部分もあります。
そのため多少批判もあるようですが、個人的にはかなりハマっていると思いました。
また、映画自体の考察も、考え方によって結論が変わってくる。
そこもこの映画の良さだと思います。
この映画の考察は数多く、その中には「いや、これはちょっと深読みしすぎだろう」と思うものもありました。
ただ、それだけ深読みできるだけの幅を持たせた映画という意味でも面白い。
映画を観終わったあとも、あれはどういう意味だったんだろう?と考えながら楽しめる作品になっています。
とにかく、人によって相性はあると思います。
ですが、今年観ておかないといけない映画の1つには入るんじゃないかなと思います。
あらすじと感想(ネタバレ注意)
※ここからネタバレ注意です。
映画では時系列が前後しながら物語が進んでいくため、ここでは便宜上、わかりやすいように時系列を整理してあらすじと感想を書いていきます。
トロイア戦争へ向かう前のオデュッセウス
まずは昔。
トロイア戦争へ出発する前のオデュッセウスは、イタケの王であり、弓の達人。
誰にも張ることのできない強弓を張り、さらに連続して並べられた斧の隙間を、一矢で射抜いてみせます。
皆がその腕前を称賛し、オデュッセウスを慕っていました。
そして、ここの弓の音が最高なんです。
これだけで「この映画を観てよかったな」と思えるくらい。
最後にも同じようなシーンがありますが、そこではこのシーンとはまったく意味合いが変わってくる。
そのため、最後は本当に鳥肌が立ちましたし、涙しました。
こういう、同じものをもう一度見せることで意味を反転させる演出も、この映画の良いところだと思います。
映画では細かく説明されていなかった気がしますが、原作の話も踏まえると、オデュッセウスは本音では戦争に行きたくなかったようです。
しかし、ギリシャの国々の同盟の約束があり、断ることができず参戦したという背景があります。
映画では、そんなオデュッセウスを止めようと、妻のペネロペがこう言います。
「戦争に行かず、2人で船に乗って、夕日を追いかけて逃げよう。どこまでも」
このセリフが非常に重要な伏線になっていて、後々大きな意味を持ってきます。
そしてオデュッセウスは、息子のテレマコスが大人になるまでに自分が戻らなければ、再婚するようにと言い残します。これは残されたイタケの民を他国の侵略から守るためでありオデュッセウスの優しさと苦悩が垣間見えます。立場的にオデュッセウスは勘違いされがちですが常に最善を考えており公平で優しいです。だからこそ後の惨劇に繋がっていくのでしょう。
ペネロペは夫にアテナのブローチを持たせます。
「これを肌身離さず持っていて」と。
本人としては、お守りのような意味で持たせたのだと思います。
しかし、これも終盤になると意味が大きく変わってくる重要な伏線です。
ちなみに、このブローチは原作にはなく、映画オリジナルの要素のようです。
トロイの木馬
トロイア戦争は、トロイアの強固な守りを崩すことができず、10年にわたって長引いていました。
そこでオデュッセウスが立てたのが、あまりにも有名な「トロイの木馬」の作戦です。
浜辺の砂に半ば埋もれるようにして置かれた、天を向く巨大な木馬。
そして、その中には精鋭部隊が潜んでいます。
さらに、「ギリシャ軍は撤退した。木馬はアテナへの供物だ」とトロイア人に告げる役として、浜に残されたのがシノンという少年です。
原作と照らし合わせると、戦争を無事に終わらせ、さらに航海を無事に終えるため、共通の神であるアテナへ供物を捧げたという話のようです。本作中ではトロイヤ人達が平和の供物だから運び入れろと言っています。
もちろん、これは嘘。
トロイアを内側から崩すための作戦です。
シノンは無事に役目を果たし、トロイア人に木馬の話を伝えます。
しかし、生き残りのギリシャ兵であることから、その場で殺されてしまいます。
トロイア側も当然疑います。
木馬に何度か剣を刺したりして確認しますが、最終的には木馬を受け入れることに。
大勢の人間が丸太などを使いながら、巨大な木馬を城の中へと運び入れていきます。
この木馬の外から剣で刺されるシーンも、個人的に細かい演出だなぁと思いました。
刺された場所から出た血を、木馬の中にいる兵士たちが拭き取って、バレないようにしているんですよね(笑)。
そして、何より巨大な木馬を実際に運び入れる光景は、かなり見応えがありました。
トロイア陥落
夜になるのを見計らい、オデュッセウスたちは木馬の隠し扉を開けて外へ。
守衛を倒しながら城門へとたどり着き、内側から門を開きます。
すると、外で待ち構えていたアガメムノン率いるギリシャ連合軍が一気になだれ込み、トロイアを圧倒します。
……ここだけちょっと気になったんですよね。
「いや、ここどうやって連絡取ってたんだ?」
って(笑)。
木馬の中から出て城門を開けるタイミングと、外で待機しているギリシャ軍の突入が完璧すぎる。
まあ、そこを細かく考える映画でもないんでしょうけど、映画を観ながらちょっと気になってました(笑)。
ともあれ、ギリシャ軍は見事勝利。
ここだけを見ると、まさに英雄の栄光のストーリーです。
オデュッセウスの知略によって長きにわたる戦争を終わらせ、ギリシャ軍が勝利する。
誰もが称賛する英雄。
――しかし、この映画はここから後半に入ることで、この「勝利」の意味がガラッと変わってきます。
そして「今」へ
時は現在へと切り替わります。
吟遊詩人による歌と、杖でしょうか?
「ダンダンダンッ」
という音が王宮に鳴り響きます。
彼が歌っているのは、トロイア戦争の栄光。
かつての英雄たちの輝かしい物語です。
しかし、その一方で王宮では求婚者たちが好き勝手に暴れ、食べ、呑んでいます。
王の帰還がない今、王宮はすっかり荒れていました。
テレマコスもまだ頼りなく、力がありません。
そんな中、王の座を手に入れようとする求婚者たちが、ペネロペに求婚を迫る日々が続いています。
テレマコスはペネロペに、自分が王になると相談します。
しかし、ペネロペからは子供扱いされてしまいます。
もちろん本音としては、まだ力のない息子が求婚者たちから危害を加えられることを避けたい、ということなのだと思います。
ちなみに余談ですが、テレマコスを演じるトム・ホランドは、テレマコスが16歳だと思って演じていたらしいんですよね。
実際の映画では20歳という設定。
それなのに、めちゃくちゃ幼く見える(笑)。
逆に、この前半の頼りなさが出ていて良かったですけどね。
そして、ペネロペから父を探す許可は降りないと悟ったテレマコスは、秘密裏に父を探す航海の手筈を整えます。
信頼のおける家来を同行させ、スパルタの地を目指します。
映画では特に表現されていなかった気がしますが、原作ではここで女神アテナが、父の旧友であるメントールという老人の姿を借りて現れます。
そして、
「父の消息を探す旅に出るのだ」
とテレマコスの背中を押し、勇気を与える。
姿形を変えながらテレマコスに同行し、彼を支えていきます。
スパルタに到着すると、国王メネラオスに会い、父オデュッセウスの話を聞きます。
噂に聞くトロイア戦争の栄光の話に、テレマコスは喜びます。
しかし、メネラオスもまた、父オデュッセウスの行方までは知りませんでした。正確には薄々気づいているだけに息子であるテレマコスには言えなかったのだと思います。
その部分を補填するように妻へレネが『あなたの兄が帰ってきてから何があったのか?!他の国王も帰りが遅かったのは何故なのか!全部話したらどうなのよ!』と激しい口調でいうシーンがあります。テレマコスは察して父は捕まっているかもしれない?と言うとメネラオスが『まさかあの男が牢獄に囚われるわけがない』と言い、、忘却の花を7年くわされて島に囚われているオデュッセウスに場面が切り替わるのが最高に好きです。捕まってます笑
で、先のヘレナもあのシーンだけだと嫌な女にうつるのですが、テレマコスがスパルタを去る際に耳元で『本当にごめんなさい、私が全部悪いの。あなたのお母様にもごめんなさいと伝えて』と言っており、過去の自分に起きたことに対して身内には引き下がれず強気な態度な反面で内心は反省していて可愛いなと思いました。(とは言え彼女は美しいだけで悪くないんですが笑)
その裏では、求婚者の1人であるアンティノオスが、帰国途中のテレマコスを殺害する計画を立てています。
不穏ですね……。
殺した証拠としてテレマコスの鼻を持ってこい、部下が鼻だけで良いのかと問うと、耳もだ! ってシーンがありますが可愛くて面白いです笑
吹替だとわかりづらいかもですが字幕だと侍女が裏切りアンティノオスに告げ口するシーンがありました。
ここで、時系列の関係上一旦「今」の話は中断します。
続いては、オデュッセウスの今――厳密にはちょっと過去(笑)。
そして、彼の記憶。
ここからオデュッセウスの「回想」へと入っていきます。
オギュギア島とカリュプソ
オデュッセウスはオギュギア島にいますが、過去の記憶がありません。
アテナに導かれつつ、自分の過去を知る覚悟と、故郷へ帰還する意思を固めていきます。
そんなオデュッセウスを島で助けたのが、カリュプソという女性。
彼女に助けられて以来、オデュッセウスは何年もの間、この島で暮らしていました。
ここで出てくるのが、忘却の花であるロートス。
トロイア戦争による深い心の傷や罪悪感に苦しむオデュッセウスに対し、カリュプソは彼の苦痛を和らげ、そして彼と長く過ごすためにロートスを与え続けます。
そう、カリュプソはオデュッセウスに惚れてしまったんですね。
ちなみに原作のカリュプソは海の女神とされていますが、映画ではかなりオリジナルのストーリーになっています。
そしてオデュッセウスが帰還への意思を固めたことで、カリュプソは彼が記憶を取り戻す手助けをします。
……といっても、過去について聞き出して、どうすれば帰還できるのかを教えるというものですが。
ここからはカリュプソが、
「そう、それで、その後どうなったの?」
という感じで、オデュッセウスの過去を振り返っていくシーンが続きます。
ということで、ここからはそのまま過去を追っていきます。
トロイア戦争後、最初の島イスマロス
まずはトロイア戦争の後、オデュッセウスたちがどうしたのか。
各国がバラバラに帰っていく中、オデュッセウス一行はゆっくり帰還しようと、いくつかの島に寄りながら帰ろうとしていました。
トロイア戦争に勝利したオデュッセウス一行が、帰路の途中で最初に立ち寄るのが、キコネス人の住む町「イスマロス」です。
長い戦争を終えたばかりの兵士たちは興奮状態にあり、オデュッセウスの制止を聞かず、町で激しい略奪や酒宴を行ってしまいます。
そして誰かが町に火を放つ。
結果としてキコネス人の逆襲に遭い、ここで仲間を失うことになります。
残ってた神官か僧侶みたいな人に『次に向かう先で良からぬものに出くわす』と言われます。
船に逃げ帰り、イスマロスを出航。
しかし、その後船団は北風と激しい波に襲われ、数日間にわたって進路を阻まれ、海を彷徨うことになります。
飢えと疲弊がピークに達し、まともな食料や水も底を突きかけた極限状態。
そんな中、補給のために命からがら目をつけた島こそが、巨人の島、キュクロプスの島でした。
キュクロプス
見た目は普通の島です。
でも、しっかり巨人が住んでいます(笑)。
島を探索していると洞窟を発見。
誰かが住んでいると考えたオデュッセウスたちは、後から話せばわかると考えたのか、そこにあったチーズや肉をむさぼり食べてしまいます。
そこへ帰ってきたのがキュクロプス。
怪物の巨人です。
もちろん話が通じるわけもなく、何人かが喰われてしまいます。
ここのキュクロプス編は、迫力が凄まじい。
映画館で見るのが本当におすすめです。
疲れた後に腹が満たされたキュクロプスは眠りについたため、何とか助かります。
しかし、バレずに出ようとしても洞窟の入り口には巨大な岩で蓋がされており、外へ出ることができません。
そこでオデュッセウスたちは、巨人を昏睡させ、目を潰し、朝に羊たちを出すタイミングでどさくさに紛れて脱出する作戦を立てます。
※10/2追記 ワインのくだりは2回目鑑賞したらありませんでした。ごめんなさい。
まず、イスマロスの町で手に入れた、通常なら水で薄めて飲むほど強烈なアポロンのワイン。
これをそのまま巨人に飲ませ、昏睡状態に陥らせます。
次に眠った巨人に対し、部下たちと協力して、先端を火で炙って硬く尖らせた丸太を、その縦に開く単眼へ一気に突き刺す。
こうしてキュクロプスを失明させます。
この時、ブチ切れたキュクロプスが何か言語を叫び出し、オデュッセウスたちは驚いていました。
2回目字幕で鑑賞したら、このシーンで、『父ポセイドンよ!こいつらが私の目を潰した。懲らしめてくれ』と言っていたようです。
ちなみに原作では、キュクロプスに対してオデュッセウスが「何者でもない」と名乗ります。
そのためキュクロプスが「何者でもないにやられた」と叫び、仲間の巨人たちも、
「何者でもない?」
「誰でもないなら、誰もいない」
「ほな大丈夫か」
ということで助けに来なかったそうです(笑)。
映画では、ここが別の作戦になっています。
翌朝、盲目となった巨人が「手触り」だけで人間を捕まえようと、出口で待ち構えています。
そこでオデュッセウスは、部下たちの鎧の周りに藁や本物の羊のウールを大量に巻き付けさせます。
巨人に触られた時に羊の群れだと誤認させる。
視覚を奪われた相手の触覚の裏をかく、かなりリアルな心理トリックです。
そして、見事に洞窟から脱出。
……だったのですが。
脱出直後、仲間をやられた仕返しだとオデュッセウスが矢を放ってしまいます。
そのため自分たちの位置がバレ、キュクロプスに船まで追いかけられることに。
しかも、このキュクロプスは実は海神ポセイドンの息子。
結果として、ポセイドンの怒りまで買ってしまいます。
また、直接的には描写されていませんが、そもそも主人であるキュクロプスを傷つけた行為は、ゼウスの定める「旅人をもてなす法」、つまりクセニアに反するとも考えることができます。
一応、正解としては「食べ物には手をつけず、キュクロプスの帰りを待つ」になるのかな?
……結局、襲われそうですけどね(笑)。
また別の巨人の島へ
その後、次の島を探して進むオデュッセウスたち。
そして、たどり着いたのは――
また巨人の島。
悪化してる(笑)。
1人の子供が出迎えてくれますが、オデュッセウスたちが話しかけると、叫び声を上げて大人を呼びます。
すると現れた大人たちは、やっぱり巨人。
しかも兵士のような鎧と剣が印象的です。
ここは大画面であればあるほど、迫力が凄まじくなりますねぇ。
ここの巨人兵はめちゃくちゃ強い。
オデュッセウスもすぐに逃走の指示を出しますが、巨人たちは船まで追いかけてきます。
結果、二隻が沈められ、仲間も約3分の2を失う大惨事に。
壊滅的な被害を受けることになります。
この時のオデュッセウスはまだ自分の知略に自信がありギリギリまで何とか仲間を救おうと弓矢で戦っていましたが圧倒的な強さを前に何もできませんでした。
余談ですが、原作?によると、この巨人族は子供の頃は鎧をまとっていないものの、大人になると鎧ができる、というか生えてくるような設定らしい。
亀の甲羅みたいな仕組みなのかな(笑)。
私はこの巨人兵の島はオデュッセウス達がしたことの報いだと考察してます。トロイヤ戦では闇に乗じて一方的に圧倒的な強さで捩じ伏せた。この島では圧倒的な強さを誇る巨人兵に逃げ場なく追い詰められます。また最初子供が出てきて油断させるのもトロイの木馬に呼応しており構成が似ていると思います。
キルケーの島
壊滅的な被害をくらったオデュッセウスたちは、次の島、アイアイエー島にたどり着きます。
この島は外から見ても煙が上がっているのが見えます。
オデュッセウスたちも、
「人がいる!」
「食べ物がある!」
と期待大。
オデュッセウスは「もう少し探索する」と言い、部下たちが先に小屋へ向かいます。
そこに住んでいたのが、キルケーという女性。
キルケーは「略奪はやめて」と一芝居を打った後、彼らに料理を振る舞います。
しかし……。
キルケーは特別な力を神から与えられた女性。
料理を食べた部下たちを、次々と豚にしていきます。
しかも力技で(笑)。
口に手を突っ込んだり、いろいろホラーなんですが、かなり見応えがあります。
オデュッセウスも後から小屋へ向かい、部下たちと同じように料理を出されます。
しかし、スープには手をつけません。
少し前、オデュッセウスは探索中に鹿を狩っていました。
ところが、矢が刺さった瞬間、その鹿が人間に変わります。
これによって異変に気づいていたんですね。
さらにキルケーに「部下たちが来たか?」と聞いても、彼女は「来ていない」と答える。
そんな状況で、オデュッセウスが何も疑わずスープを飲むはずがありません。
「こいつは何なんだ?」
と、スープの中から指輪を取り出します。
この指輪は特別なもの。
エウリュロコスは、劇中で戦死した仲間エルペノールの形見として、そのメモリアル・リング(記念の指輪)を引き継ぎ、自分の指にはめていました。
つまり、部下たちが来ていないというキルケーの嘘を、オデュッセウスはこの指輪から見破ったわけです。
さらにオデュッセウスは、カラスを鷲掴みにして、
「部下を戻せ」
とキルケーを脅します。
このカラスは、実は彼女の妹。
キルケーがそのカラスを大事に飼っているのを見て、オデュッセウスは彼女の弱点だと判断したのでしょう。
弱みを握られたキルケーは、無事に部下たちを戻すことになります。
個人的に、オデュッセウスがめちゃくちゃ頭良くて好きなシーンです。
力で押し切るのではなく、相手を観察して、嘘を見抜き、さらに弱点まで見つけて逆転する。
まさに「知略のオデュッセウス」という感じがします。
あとキルケーの島で好きなシーンはオデュッセウスに振舞う豚を1匹小屋に入れるんですがその時我先にと入ったのがエウリュロコスなんですよね笑 これは指輪をはめてるのが自分だからオデュッセウスに気づいてもらうためなのか、ただ中に入りたかっただけなのか、
と思ったんですがやっぱり豚に改変された時にたまたま容器の中に落ちてただけなのかな?
でも考察的にはいつもポンコツなエウリュロコスが珍しく副船長らしさを出したシーンってことにしておきたいです笑
キルケー、映画と原作の違い
余談ですが、キルケーは原作では魔女。
オデュッセウスが単身で館へ乗り込む際、神ヘルメスが現れ、キルケーの魔法を無効化する白い花の薬草「モーリュ(Moly)」を授けます。
そして薬が効かなかったことで恐れをなしたキルケーに対し、オデュッセウスが剣を抜いて迫る。
キルケーは命乞いをして和解を求め、その後、部下たちを人間に戻してもらいます。
さらにオデュッセウス一行は1年間にわたって彼女の館で歓待を受け、快適な生活を送る。
このあたりは映画と原作でかなり違っていて、比較してみると面白いところです。
また、私も見逃していたのですが、映画でのキルケーの島では時間の流れが早く、船出まで5年も経っているようです。
髪の変化や夕日、帰る際に映る船まで、細かく表現されていたようですね。
これは次に観る機会があれば、注意して見てみたいところです。
冥界へ
さて、キルケーの島でいろいろ落ち着いたオデュッセウスは、キルケーに帰還するために何をすべきなのかを聞きます。
するとキルケーは、
「まずは世界の果てにある冥界(あの世)へ行き、予言者テイレシアスの亡霊から帰国ルートを聞き出しなさい」
と告げます。
そして、冥界へ行くための儀式の方法を教えます。
ここからは、これまでのオデュッセウスの善悪の価値観も逆転し始めるターニングポイントになっていたなぁと思います。
そして冥界へ。
冥界に着いたオデュッセウスたちの前には、土の中から次々と死者たちが出てきます。
その中には、シノンの姿もありました。
シノンは、オデュッセウスによって自分が騙され、利用されていたこと。
そして、その後家族がどうなったのか。
そういったことをオデュッセウスにぶつけ、彼の良心と罪悪感を激しく揺さぶります。
さらに、途中で亡くなった仲間たちもちゃんと弔えと告げます。
そしてアンティノオスに「クジ柱を見せろ」『あの男に恥を返せ』と、オデュッセウスにクジ柱を託します。
正確にはオデュッセウスは騙したわけではありません、当時アンティノオスはクジをシノンと交換しましたがアンティノオスを助けようとしたわけではなくアンティノオスの父が息子を想う気持ちを汲んで渋々目をつぶっていたのです。
当時のシノンはオデュッセウスに信頼をおいており、『無事に帰れなかったら父に私の勇敢さを伝えてくれ』と言っていました。
しかし生きているはずの父が飢え死にしており冥界で会うことになったのでシノンは怒っていたのです。
また、帰ったはずのアガメムノンもそこにいました。
アガメムノンは、戦争から凱旋して英雄として歓迎されると思い込んで帰宅した。
しかし、待っていたのは妻クリュタイムネストラによる暗殺。
その無念を語り、
「我々が思うような歓迎はされない」
と、オデュッセウスにも覚悟するよう忠告します。
前半で「超かっこいい装備のあの漢!」と紹介したアガメムノンですが、ここでその後の悲しい運命を知ることになります。
やっぱり悲しき漢……。
テイレシアスの予言
そしてオデュッセウスは、仲間の兵士たちを救い、全員で無事に故郷イタケへ帰還する方法をテイレシアスに求めます。
しかしテイレシアスは、オデュッセウスの、
「自分の知略なら仲間を救える」
という過信を否定します。
このシーンは、人間が持つ短視眼的な欲望やプライド、つまり「思い上がり」こそが、最終的に破滅をもたらす原因になるということを、かなりわかりやすく表現していると思います。
オデュッセウスは助言を聞き入れます。
……とはいえ、内心では部下を全員守りたいオデュッセウス(笑)。
まあ、無理もない。
「確実に犠牲が出るから、それを受け入れろ」と言われているのだから。
そして、この冥界のシーンでもう一つ面白いのが、土の中から人が出てくるところ。
これ、実際に人が土の中から出てくる形で撮影されていて、CGではないんですよね。
こういうところも、今作の映像へのこだわりを感じます。
そして最後には、弔わなかった死者たちが大量にオデュッセウスたちを追いかけてきます。
「ちゃんと弔え」という話を聞いた直後にこれなので、
「いや、弔わなかった結果がこれかい(笑)」
となるところでもあります。
死者たちに追われながら、なんとか船を出すオデュッセウスたち。
ここでも、前提知識として触れた「死者を弔う」という掟が、単なる設定ではなく、物語の中でしっかり意味を持ってくるのが面白いところです。
セイレーン
テイレシアスの予言を聞いたオデュッセウス達は、船で帰還を目指します。
最初の難関はセイレーンです。
甘い歌声で船乗りを惑わし、難破させる怪物がいる海に到着します。オデュッセウスは部下たちの耳を蝋で塞がせ、自身は歌を聴くために体を帆柱に縛り付けさせて、なんとかここを突破します。よーくみてみると、、霧の濃い岩の上に数人の人魚みたいなセイレーンが見えます笑 2度目の鑑賞で気がつきました笑
途中、誘惑に負けて1人海にダイブしていったシーンが地味に面白いです。
映画では直接的な表現がなかったですが、オデュッセウスは自分だけが声を聞き、無事に通過できれば仲間は正常に戻った自分をみて安全と確認できるという策略をたてたようにもみえました。
どんな歌なのか気になるなぁ。
幸せそうだったが?
ドMの人が痛みに耐えながらも喜んでる感じにみえました(笑)
次は怪物スキュラとカリュブディス
巨大な渦潮(カリュブディス)と6つの頭を持つ怪物(スキュラ)がいる海域に到着したオデュッセウス達。
渦潮は飲み込まれた場合全員死亡、スキュラなら6人で済みます。
オデュッセウスはスキュラを選びました。
勿論6人喰われてしまうんですが、オデュッセウスはこちらが安全だと誘導したために、後から「何故知っていたのに言わなかったのか」と責められます。
この段階から、生き残るためには綺麗事だけではいけないと、オデュッセウスに心の変化が見られたような気もします。
太陽神の島
何とか太陽神ヘリオスの島、トゥリナキア島が見えてきて、限界が近づいた部下は立ち寄ろうと言います。
しかしオデュッセウスは、予言で太陽神の家畜に手を出せば全滅すると聞いていたので制止しました。
部下も部下で「手を出さないなら問題はない。休むだけだ」と言い、渋々オデュッセウスは島に上がります。
部下達は言いつけを守り、休みました。
しかし……
風向きが完全に逆風へと変わり、1ヶ月もの間、島から出られなくなってしまいます。
待てど暮らせど状況は良くならず、船に積んでいた食料やワインは底を突きます。
部下たちは鳥や魚を捕って飢えを凌ぎますが、それもすぐに限界を迎え、飢餓の恐怖がじわじわと彼らの正気を蝕んでいきます。
そして……
オデュッセウスが神々に祈りを捧げるために席を外し、極限の空腹と疲労から眠りに落ちてしまった隙に、エウリュロコスは部下たちに向けてこう言います。
「飢えで惨めにのたれ死ぬくらいなら、神の怒りを買って一瞬で殺される方がマシだ。無事にイタケに帰れたら、太陽神のために立派な神殿を建てて償えばいい」
はい!
やらかしエウリュロコスのMVPです(笑)
飢えに狂った部下たちは次々と聖なる牛を屠り、その肉を焼き始めます。
まさかの表面上は無事……
だが……
逆風が止み、晴れて出航したオデュッセウス達。
船が島を離れ、陸地が見えなくなった瞬間、空が突如として漆黒の闇に包まれます。
嵐に落雷。
船に雷が落ち、木っ端微塵に砕け散ります。
そのまま嵐、荒波にのまれてオデュッセウス達はバラバラになります。
太陽神ヘリオスから訴えを受けた最高神ゼウスが、容赦のない神罰を下したのです。
そして皮肉にも予言の通り、オデュッセウスだけが生き残り、カリュプソのいる島に漂流します。
そして時は「今」に繋がります。
派手な演出の中でも、予言の通り太陽神の家畜に手を出さなかったオデュッセウスだけが神の裁きを免れ、生き残るという丁寧な伏線回収が素晴らしいです。
カリュプソに救われたオデュッセウス
カリュプソに救われた彼は、記憶を奪う「蓮の実」の影響もあり、7年もの間その島に留め置かれることになります。
しかし、妻ペネロペから贈られたブローチをきっかけに家族への愛と記憶を取り戻し、再び故郷へ向けて手作りの筏で海へと漕ぎ出します。
「流れるままに、ただ1人、筏で海に出なさい。ポセイドンの罰を受けるがゼウスがあなたを助ける。」という言葉を信じ、海に出るオデュッセウス。
途中、嵐に見舞われて再び漂流しますが……
「ここはどこだ……」
そう言うオデュッセウスに、アテナが「ここはあなたが知ってる場所よ、自分の故郷をご存知ない?」といったニュアンスの言葉をかけます。
そしてオデュッセウスは、イタケに無事到着したことを知ります。
長い旅を経て、ついに故郷へと帰ってきたオデュッセウス。
ここから、いよいよ物語は終盤へと入っていきます。
イタケへ帰還
イタケに着いたオデュッセウスは、アガメムノンの忠告を守り、物乞いに変装して国に入ります。
そして、かつての忠僕エウマイオスに会います。
エウマイオスから現在の王宮の状況と、オデュッセウスの人柄について聞くことになります。
オデュッセウスは自分をトロイヤ戦から帰ってきた兵士だと名乗り、「オデュッセウスは戻ってくる」と告げます。
しかしエウマイオスは、度重なる求婚者や権利者からの罵倒で精神的にもかなり追い詰められていました。
そして、
「もう(そんな嘘は)やめてくれ」
と言います。
ここは、オデュッセウスが戻ってきたことを信じたいのに、長い間待ち続けたことで、もう期待することすらできなくなっているように見えて切ないです。
そしてエウマイオスから、テレマコスの命が狙われていることを聞いたオデュッセウスは、ピュロス神殿へ向かいます。
ちなみに、この盲目のエウマイオスですが、実際に盲目用のコンタクトを入れて目が見えない状態で12時間以上撮影したそうです(笑)。
凄すぎます。
ピュロス神殿
ピュロス神殿では、テレマコスが暗殺される場面にオデュッセウスが立ち合います。
間一髪でテレマコスを助け出しますが、連れ添っていたメントルが間に合わず殺されてしまいます。
オデュッセウスたちは弔いの火を焚き、神殿ごと燃やします。
そして混乱に乗じて2人で逃げ出します。
ちなみに神話では、ピュロスにてテレマコスたちが必死に祈りを捧げている相手、ポセイドンこそが、父オデュッセウスを海上で漂流させ、帰国を阻んでいる張本人です。
つまり、神話的な皮肉が象徴的に描かれている場所でもあるようです(笑)。
「オデュッセウスは帰ってくる」
オデュッセウスはここでは身分を明かさず、トロイヤ戦から帰還したシノンだとテレマコスに伝えます。
好奇心旺盛なテレマコスはいろいろな質問をします。
その話の流れの中で、
「オデュッセウスは帰ってくるのか?」
と尋ねます。
するとオデュッセウスは、
「今すぐ」
と答えます。
いや、あながち間違ってないが「お前や」(笑)。
初鑑賞時は笑ってしまいました。
そしてオデュッセウスは、
「無事に帰れたら帰還を祝うパーティを開くといい。その時また会おう」
と約束します。
アルゴス
王宮へ向かうと、そこには老犬アルゴスが横たわっています。
オデュッセウスを認識すると少し元気になりますが、その後、息を引き取ります。
オデュッセウスがアルゴスの名前を呼んだこと。
そして何より、アルゴスに出会った場所を知っていて、そこに埋葬したこと。
これによってテレマコスは、シノンと名乗る物乞いがオデュッセウス本人だと気づきます。
エウマイオスから、オデュッセウスの猟犬はその場所で出会ったと聞いていたからです。
テレマコスがニヤリと笑うこのシーン、可愛くて好きです。
王宮への潜入
王宮のパーティにて、無事侵入に成功したオデュッセウス。
一悶着ありますが、シノンとしてアンティノオスに近づき、クジ柱を突きつけます。
アンティノオスは激怒しますが、この場はテレマコスが強制的に宴を終わらせることで事なきを得ます。
そして、オデュッセウスの正体に勘付いたペネロペは、宴のあとオデュッセウスを呼びます。
この時点では、ペネロペはほとんどオデュッセウスだと気づいているものの、確信まではいっていないように見えます。
夫婦で芝居をしているような感じもあって、ここがまた面白いです。
トロイの木馬の真実
ここでオデュッセウスは、トロイヤ戦争におけるトロイの木馬作戦が、いかに非道で間違っていた行為だったのか、そしてそれが今にどう影響しているのかを話します。
冒頭では明かされなかったトロイの木馬の真実が、ここで初めて明らかになります。
炎に包まれたトロイヤ。
奇襲によって混乱する中、一方的に倒していくギリシャ軍。
捕虜を捕らえて殺害。
そしてアテナ像の顔を叩き切る。
元々、弦を鳴らしてから戦いをするオデュッセウスにとって、これは絶対にしてはいけないことでした。
戦火の中で、そのことに気づきます。
そしてオデュッセウスは、誰にも言えなかった罪をペネロペに告白します。
ブローチの伏線回収
一方、ペネロペが聞くのは、とてもシンプルなことでした。
「オデュッセウスはどうだったのか?」
そして、
「アテナのブローチは身につけていた?」
と聞きます。
オデュッセウスは、
「肌身離さずつけていた」
と答えます。
マジでこのシーンは泣けますね。
結果的にこうして帰って来れているのも、忘却の花を食べさせられながらも、ブローチによってこの絆を繋ぎ止めていたおかげですからね。
「あなた達が海の民だったのね」
とペネロペが締めて、会話が終わります。
ここは原作との違いも面白いところです。
原作では、ペネロペがオデュッセウス本人かどうかを確かめる最後の試練として、「オリーブの木のベッドの秘密」が登場します。
誰にも動かすことのできない、オリーブの木を利用して作られたベッドの秘密を知っているかどうかで、本人だと確認するわけです。
今回の映画では、その役割をブローチに置き換えています。
しかも映画の流れを見る限り、ペネロペはこの時点ですでにオデュッセウスだとほぼ確信していて、ブローチについて聞くことで最終確認をしているようにも見えます。
序盤で渡したブローチが、記憶を失ったオデュッセウスを家族へ繋ぎ止め、そして終盤ではペネロペが本人を確かめるためのものになる。
この伏線回収は本当に綺麗です。
ペネロペと弓
そして、多分ペネロペがほぼオデュッセウスだと思ったからだと思うのですが、
「婚約者を決めるから準備をして」
と伝えます。
自分がペネロペがほぼ気づいているのではないかと考える理由は、オデュッセウスが「武器はどうする?」と聞かれた際に、『ペネロペが用意する』と答えたからです。
オデュッセウスだとほぼ確信したからこそ、急展開で弓を使って求婚者を選別すると言い出したのでしょう。
少し話が逸れますが、テレマコスが帰還した後、父の行方は掴めないから自分が国王になるか、1人求婚者を選んで他は追い出せばいいと提案した時、ペネロペは感情を露わにして、
「私は好きでもない奴と結婚しなきゃいけないの?」
と怒っていました。
それほどオデュッセウス以外は嫌なのです(笑)。
そんなペネロペを深く理解しているオデュッセウスなので、求婚者を選ぶ時に自分の強弓を使うと分かっていたのだと思います。
そしてテレマコスは部下たちに、武器を武器庫に全てしまうように指示します。
いよいよクライマックスです。
20年の時を経て鳴る弓の音
求婚者選別の日。
皆が会場に集まります。
ペネロペは、
「斧の間を見事通し、的に弓矢を当てた者と結婚する」
と告げます。
次々に求婚者が挑戦しますが、誰も弓の弦を張ることすらできません。
そこでテレマコスは、アンティノオスにも挑戦しろと弓を渡します。
煽りですね(笑)。
しかしアンティノオスは「必要ない」と言って逃げます。
さらに、
「誰もできないのだから、この中から選んでくれ」
と、せこいことを言います。
このタイミングで、今まで黙っていたオデュッセウスが、
「私にやらせてくれ」
と言います。
ここからが、この映画1番の見どころですね。
弓を鳴らす前の前奏、ピアノでしょうか。
何度か音が聞こえてきます。
焦らします。
そしてオデュッセウスが弓を張り……
鳴らす!!!!
ビィーン。
この瞬間、涙出ます(笑)。
ちなみにペネロペも涙出ます(笑)。
見事に矢を射抜き、周りも本物のオデュッセウスだと気づき始めます。
そしてオデュッセウスは、弓で次々と敵を倒していきます。
求婚者たちは慌てて逃げ出しますが、扉は閉まっており、武器もありません。
1人が武器庫へ向かいますが、エウマイオスが外から鍵をかけます。
それでも男は諦めません。
床を武器で殴って破壊し、穴から下へ武器を送り込みます。
それを阻止するため、テレマコスが武器庫へ向かい戦います。
アンティノオスが落ちた武器を見て、
「盾だ! 槍だ! 拾え!」
と言うだけで、自分は見ているだけなのが面白いです(笑)。
最初は優勢だったものの、数の差もあり、オデュッセウスは徐々に追い込まれていきます。
絶体絶命のその時、上から父さんと叫び、テレマコスが長めの斧を投げ入れます。
これによって戦況が変わります。
多分この時、テレマコスが「父」と言ったことで、元家来たちもオデュッセウスが本物だと確信し、流れと雰囲気が変わった気がします。
そしてアンティノオスは追い詰められます。
最後には口にクジ柱を入れられ、
「冥府で恥を受け取ったとシノンに伝えろ」
とオデュッセウスに言われ、絶命します。
映画オリジナルの結末
この後が映画オリジナルです。
死にかけのオデュッセウスを見て、ペネロペが、
「死なないで」
と言います。
それに対してオデュッセウスは、
「死ぬほどまでの罰ではないさ、追放さ」
と答えます。
そして、あの名シーンへと繋がります。
「優秀な船員を連れて2人で船に乗って、夕日を追いかけて逃げよう。どこまでも」
序盤でペネロペがオデュッセウスに語った言葉を、今度は2人で読み合うような形になっています。
ここが本当に良いんですよね。
そしてオデュッセウス達は国を出て、西の土地で仲間たちを弔いに出ます。
最後は成長したテレマコスが王位につき、めでたしめでたし。
とても綺麗に終わります。
原作との違い
ちなみに原作では、主人公オデュッセウスは20年ぶりに故郷イタケへ戻り、妻ペネロペに言い寄っていた館の求婚者たちを第22歌で全員討ち滅ぼします。
そして、殺された求婚者たちの父親や親族たちが怒って押し寄せ、オデュッセウス側と一触即発の戦闘状態になります。
このままでは終わりなき血の報復が続いてしまいます。
そこでオリュンポスの神々、ゼウスとアテナが介入します。
アテナの呼びかけによって、遺族たちは息子たちが殺された悲しみや怒りを「忘れさせられ(忘却)」、再びオデュッセウスがイタケの王として君臨して物語が幕を閉じます。
今回の映画では、復讐の連鎖を神の力で終わらせるのではなく、自らが出ていくことで戦いの種を消し、新しい種、つまりテレマコスに託すという構成になっているのが印象的です。
以上で、めっちゃ長かったですが、あらすじと感想は終わりです。
最後に
今作オデュッセイアの映画は王宮の話以外はオデュッセウス視点で描かれており、実は映画に出てきた怪物達はオデュッセウスしか見てないので作り話だという考察をよく見かけます。
私もその見方で観るのも面白いと思う反面やはりロマンがあるのでセイレーンとか魔女とかヤバイ巨人兵とかいるのも面白いと思います。
こんないろいろな感じ方ができるように丁寧かつ満足度の高い映画に作ってくれた方々に深く感謝してます。
あと少なくとも10回くらいは楽しめる気がします。ざっくばらんシリーズの記事で2万字近くになる異常事態は初のことです。もしもここまで読んでいただいた方々がいらっしゃいましたら同様に深く感謝致します。
ありがとうございました。
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